私が霊術院を卒業して10年、隊長になって5年が経った。
私自身、真子とのあの口約束を忘れかけていた。








胡蝶の如く  07











「隊長、本日の隊首会で新任の儀が執り行われます」
「あぁ…そういえば言ってたな。五番隊か?」
「はい。前隊長が退位したためですね」






ある日の朝、疾風が私を呼びに来た。
新任の儀…
まだ記憶に新しい。
まぁ、ただの隊長各との顔合わせなのだが。

私が一番隊隊舎に着いた頃、ほとんどの隊長各が既に着いていた。







「あら、ちゃん。久しぶり」
「京楽隊長…お久しぶりです」
「も〜、敬語じゃなくていいのに」
「でも私はまだ…新米です」








人の目を見て話すことはあまり好きでない。
だから、京楽隊長の顔もほとんど見ずに、会話を終えた。
私の立ち位置は総隊長の横。
こんな新米の私が総隊長の横につくなど、恐れ多いことだ。








「さて。全員揃ったかの。
 ではこれから新任の儀を執り行う。」






バンッとドアを開けて入ってきた人物を見て私は目を見開いた。
そこには見知った顔が隊長羽織を羽織って堂々と立っていたからだ。






「新隊長選任を行った結果、ここに元・五番隊第三席平子真子を
 五番隊新隊長に任ずるものとする」







隊首会が終わるとすぐに私は副官を連れて隊舎へと戻った。
私から話しかけて、忘れられていた、なんていうことになりたくなかった。
それじゃあ、ただの私の想い損ではないか…

すると、急に外が騒がしくなってきた。
警備係の隊士が何やら誰かを止めているらしい。








こ、困ります!!あ、あの…隊長…!』
『かぁ〜ッ!まだ俺の名前も知らんのか!五番隊隊長や!
『えっと…あの隊長としての隊長への面会予定は…』
『ないッ!えぇねん!俺はと同期や!








声ですぐに分かった。
私はガタンッと椅子から立ち上がった。
それと同時に襖がバーンと開き、先ほど見た新隊長が仁王立ちで立っていた。
綺麗な金色のストレートな髪は肩甲骨あたりまで伸びていた。
真子はニヤッと笑うと、私の前にズイッとやってきた。
私はびっくりして声も出せずに、彼の顔を見上げた。








久しぶりやなァ、
「し、真子…久しぶり、だな」
ちょっと来い!
はぁ!?







急に抱きかかえられると、そのまま瞬歩でどこかに連れて行かれてしまった。









「何やねん、せっかくさっき喋りかけようと思たら、すぐ帰ってまうし」
「う…」
「それにお前んとこの隊士、俺のこと知らんかったで!?隊長やのに!
「そ、それは今日、新任の儀を終えたばかりで…」









そんな話をしていると、ふと地面に降ろされた。
そこからは瀞霊廷を一望できる丘の上だった。








「わぁ…」
「これが俺らの住む世界や」
「…」
「10年前、俺が言ったこと覚えとるか?」

待ってろ、ってゆってん、俺
「…覚えてる」
「何を待ってろってゆう意味か分かってたか?」
「そ、それは…」








ニヤッと笑う真子の顔をまともに見ることはできなかった。
そんな私の顔を上げようと、彼は私の顎を持ってクイッと上を向けた。
顔がカッと赤くなるのを感じた。









…お前はもう俺の前でしか笑われへんはずや」
「ぇ…」
「この10年、まともに笑ったか?笑ってへんやろ…
 お前は笑うんめっちゃ下手やからなァ。
 だから俺が笑わしたる。この先、死ぬまでずっとなァ。」
「…」
「この意味分かるか?」
「ぇ、あ…
「せかやら、死ぬまでお前の事護ったる、ゆうてんねん。
 そのために死ぬ気で10年で隊長なったんや。俺はもうお前を護れる力持っとる」








知らず知らずのうちに涙が頬を流れていた。
真子はその涙を優しく拭ってくれた。








「なんや、これは嬉し泣きか?悲し泣きか?」
「う、嬉し泣きに決まっておるッ!」
「そーか!」









そう言って真子は私をギュッと抱きしめてくれた。
男に抱きしめられるのは初めてだった私は、どうすればいいのか分からず、
ずっと真子の腕の中で泣いていた。











2016/09/25