それから私は毎日、平子と話すようになった。
正確には、平子は毎日、私に話しかけてくれた。
胡蝶の如く 05
そして私たちが同じクラスになった数週間後、
平子は5年にいる友達を紹介してくれた。
「このアフロがラブ、このいかついのが拳西や。
こいつらはアホやから飛び級できへんかった」
「なんだと!?まぁ、オレは六車拳西。よろしくな」
「まぁ真子はイイ奴だからよ、仲良くしたってくれ。オレは愛川羅武だ」
「私は…だ。よろしく」
私は少しためらいながらも手を差し出した。
今までは誰も握ってくれなかった。
みんな、恐れ多いと言っていた。
だが、この平子の友人だという二人は私の手を快く握ってくれた。
力強い、大きな男の手だった。
「これで友達増えたなァ!一気に二人や!」
「え…?」
「こいつらと仲良かったら何かと便利やぞ?呑み屋とかな」
「おい、真子!貴族は呑み屋なんか行かねーだろ」
「そうなん?ちゃん」
「そうだな…屋敷に帰ればあるからな」
「うわー!ゆってみたいわ、そんな台詞!」
すると3人は私の前で漫才のようなことをし始めた。
まぁ、口喧嘩なのだろうが、私にとってはそれは面白いものだった。
「あははッ!面白いのぉ、おぬしらは…」
「あ…、笑った方がいいぞ」
「え?」
「ほらな!?前から俺もゆぅてんねん!」
「あぁ。笑った方が可愛いって!絶対!!」
「…///」
平子といい、六車といい、愛川といい、何故私のことを可愛いというのか不思議だった。
今まで、自分の顔に興味を持ったことはなかった。
鏡を見るたび、母親を思い出すほど、似ていると思うだけだった。
それから平子は私を街に連れて行ってくれた。
安くておいしい甘味処や居酒屋、雑貨屋などだ。
普段私はそのような場所には行かない。
だからとても新鮮で、楽しかった。
「これ、に絶対似合うって!」
「持ってる」
「嘘ぉ!?これ、新作やで!?」
「ここの店主がいつも発売前に持って来てくれるからな」
「はぁ?それ、反則やろ!」
「あはは!あ、これ、真子に似合うのではないか?」
「俺か!?俺、男やぞ!」
「でも髪が長いだろ?私より」
「これは伸ばしてんのー。ファッションやのー!」
髪飾りを手に取り、遊んでいるだけでも楽しかった。
いつの間にか私たちは名前で呼び合うようになったいた。
真子は私のことを「」と呼び、
私は真子のことを「真子」と呼ぶ。
お互いの距離が縮まった気がしていた。
そんなときだった。
私の母であり特別隊隊長であった美鈴が亡くなった。
原因は分からなかった。
動けないだけで、生命活動に支障をきたすような傷はないと聞いていたからだ。
卯ノ花四番隊隊長の話によれば、生きることを止めたようだと言っていた。
私は母の亡骸を見て後悔した。
母が生きているうちに隊長職を継ぎたかった。
友が出来たといって浮かれて鍛錬を怠っていたような気がした。
不思議と涙は出なかった。
こうなることは予想の範疇だったから。
だから母の亡骸の前で誓った。
立派な隊長になると。
「!今日、甘味処行かへん?新商品が…」
「すまぬ。もうおぬしとは関わらぬ」
「え?」
「明日には私はここを卒業する。短い間だったが世話になった」
「…は?」
「十分な礼は出来ぬが…」
「勝手なことゆうなって。
俺が知らんとでも思てるんか?お前の母ちゃんが死んだこと」
「!!」
「で、何か?
お前が早よ隊長ならなあかんから卒業すんのか?まァ、勝手やなぁ!」
「ッ!」
私は歯を食いしばった。
図星だった。
真子に言い当てられたことで頭にきたわけではない。
悔しいのだ。
悲しいのだ。
苦しいのだ。
少しでも、こやつらと同じだと思っていた自分が憎かった。
真子たちと同じような道は進めない。
それが「」に生まれた運命なのだ。
そんな真子をまともに見られるわけはなく、
私はそのまま彼に背を向けた。
彼と離れるのが苦しかった。
辛かった。
こんな感情、初めてで、どういったらいいのか分からない。
でも、離れたくなかった。
友達だから、ではない、何かが、私をそう思わせた。
「!!
10年や!10年で俺も隊長になる!」
「…!」
「えぇか!?それまで待ってろ!
俺が隊長なるまで絶対お前とは口も利かん!!」
「真子…」
「待ってろよ、!!」
それが霊術院で見た最後だった。
2012/10/06