現・特別隊隊長である美鈴は大層美しかった。







胡蝶の如く  04










美鈴を母として生まれた。
父親はが生まれる前に虚と戦い、死した。
父親はそれほど強い死神ではなかったが、強い志があった。
それに比べて美鈴は強く、美しかった。
長い黒髪を靡かせ、刃を振るう。
その姿は護廷隊随一の美を持っていた。

そんな母を私は尊敬していた。
母に育てられた記憶はないが、母親のような死神になることが物心付いた頃からの夢だった。
たまに会うことの出来る母は優しかった。
いつも私の成長を喜んでくれた。
そんな母が私にこんなことを言った。
とても印象的で、一生忘れることはないだろう。








『母様!私、母様のような死神になります!』
…特別隊隊長とは大変重い地位ですよ?』
『それでも私は、母様を尊敬しています!だから…』
はきっと美しく成長するでしょう…
 力もあれば、美貌も持ち、何不自由なく、生きていくものを持てるはずです。
 でも、女にとって一番大事なものは分かりますか?』
『?』
本当は女に力なぞいりません。
 女は護られるために生まれます。女を護るために男がいます。
 それを忘れてはいけません。』
『護られる…?』
『そうです。
 もし、を心から護ってくれる男が現れたのなら…
 そのときは力に固執することを止め、その方に一生を尽くしなさい。
『母様にはいるんですか?』
『ふふふ…だから貴女が生まれました…
 でも私は力に固執することを止められなかった…
 だから貴女にはそうなってほしくないの。』








その話をする母の表情は優しく、そして儚かった。
それから母は隊長という職務を全うした。
私が霊術院に入学する直前まで、元気に隊長職をこなしていた。
しかし、私の入学を前に、母は大怪我を負った。

部下の謀反だった。
特別隊は元・罪人を死神として使う特攻部隊として成り立った歴史があり、
母が隊長だったときはまだそのような隊員が少なからずいた。
それは私も知っていたし、母も部下という親密な関係ながらも、監視していた。

母に謀反を起こした死神は母を後ろから斬った。
骨が見えるほどに深く、そして残酷に。
その死神は最後の力を振り絞った母に殺された。
母は一命を取り留めたが、もう立つことはできなくなった。
自動的に隊長職は引退となった。
特別隊の隊長は家の者しかなれないことになっているため、現在は不在である。

母がいなくなった今、私が早く力をつけて隊長にならなければならなかった。







「甘えなどいらぬ…私が隊長にならなければ…」







蒼純の元から去ったあと、私は屋敷で鍛錬に勤しんでいた。
蒼純は笑えと言った。
だが、母様が生きているうちに、母様に顔向け出来るような隊長にならなければならない。

私に友なぞいらぬ
欲しいのは力だけ







力さえ、あれば…









***







それから数か月、私は6年へ進級していた。
部屋の扉をガラッと開けた瞬間、見覚えのある顔が飛び込んできた。








久しぶりやなー、ちゃん☆
「…平子…?」
おー!覚えててくれたんや!めっちゃ嬉しいわ!」
「別に…その金髪を覚えていただけだ」
「いやー、それでも嬉しいわぁ」
「黙れ。ところでおぬし、何故ここにいる?ここは6年の…」
「俺も6年や」
「…は?」
「俺もやるときゃやるんやでー!進級したんや!」
「…へぇ…」
ちゃん、飛び級やろ?やるやん」
「別に。」








すると、平子は急に私に向かって変な顔をした。








「な、なんだ…?」
「へんははおしはらはらうはなぁほほへ…」
「何言ってるのか全く分からん」
あへっ!







私は平子の手をペチンと叩いた。
すると、手が顔から離れ、元の顔に戻った。
ところどころ、赤くなっている。







「いやー。変な顔したら笑うかなぁ思てな」
「…は?」
ちゃん、最近、また笑わんようになったからな!俺が笑わしたる
「…」
「だからこーやって…」
「あ!また…!」
「ほほろいはろ?」
あはは…!だから何言ってるか分からん…」
「笑った!」
「え?」
「上品に笑うのもえぇけど、俺は今の顔のほうが好きや」
ッ!///








そういって額をピンッと弾かれた。








「俺が一日一回笑わしたる。覚悟せぇよ」
なっ…!
「えぇやろ?」
…やっぱり私がおぬしを好かん!
えぇ!?なんでー!?
調子が狂う!








私は平子から離れて席に付いた。
自分でも顔の筋肉がほぐれているのが分かった。








2012/09/30