「…というわけだ。変なやつだろう?」





私は屋敷に来ていた夜一に最近の出来事を話した。









胡蝶の如く  03










あれから平子真子は毎日私の前に現れるのだ。
特に重要な用件があるわけでもなく、私にちょっかいをかけて帰るだけ。
そんな不思議な行動を夜一に詳しく話していた。








「良いではないか。話し相手ができて」
「は、話し相手ではない!あやつが勝手に…!」
「でも話すのじゃろう?話し相手ではないか」
「む…」
「その関西弁の男は良い男なのか?ん?」
「な、何だイキナリ…良い男というか…初めて私に話しかけてくれた男だ」
「…へぇ」
「ま!私はあやつが嫌いだがな!
「何故そうなる!?」
めんどくさい!
「はぁ!?」








夜一はの表情の変化に気付いていたが自身が気づくまで待つことにした。







***






その頃、霊術院寮食堂では三人組の男が食事を取っていた。







「ってか、真子。最近、2年の女に目ぇ付けたって?」
ちゃんは俺の初恋の人や」
「は?それ、毎回言ってねぇか?」
「拳西、うっさいぞ」
って…家の次期当主と同じ名前だなぁ、おい!」
「本人や」
「そーかそーか!本人か!…って、はぁ!?
「米粒飛んでんぞ、ラブ!」








拳西とラブと呼ばれた青年は黙々と飯を食べる真子を呆気に取られたように見ていた。








「それは…お前、殺されるぞ」
「喋ってるだけやないか」
「あーゆう大貴族には関わらんほうがいいんだって!」
「そんなんお前らがゆーとるからちゃんに友達ができへんねやろ」
「「は?」」
「綺麗な顔しとんのに、目はめっさ沈んどった」
「何言ってんだ、真子」
ってゆったら次の特別隊隊長だろ?おっかねぇぜ?」
「俺かて隊長なるからな!大丈夫や!」
「夢はでっかく、だな」
「夢ちゃうわ!現実や!」
「じゃあ俺も真子に負ける気はねぇから、将来は隊長だな」








青年たちは、各々に話ながら、夕食を腹に収めた。
彼らが将来、本当に隊長になることは言うまでもない。





翌日、は朽木邸にいた。







蒼純!如何様で私を呼び出す!?」
「あぁ、。久しぶり」
「私は今…」
「霊術院に通ってるんだろう?知ってるよ」
「う…」
「お前は妹みたいなものだ。世渡り術を教えてやろうと思ってな」








蒼純は筆をおいて私を微笑みながら見た。
元々、身体が強くないのに六番隊の副隊長をしているため、
以前より休養する回数が多くなっていることは知っていた。
休養中、いつも書道をしているらしいが、一向に上手くなる兆しはない。
それを本人は自覚していないのか、だんだんと難しい文字に挑戦しているのだ。
今日は「威風堂々」という漢字を半紙に書いているらしいが、どれも字がつぶれてしまっている。








「世渡り術?」
「どうせ友達もおらぬだろう?」
「だ、黙れ!おぬしには関係ないわ!おぬしは自分の身体のことを心配しろ!」
「ははは…それを言われては終いだが。まぁ、座れ。茶菓子もあるぞ」
「茶菓子なぞ、いらぬ!もう菓子でつられるような餓鬼ではない!」
「餓鬼じゃなかったら一々熱くなったりせぬ」
「…!」








私はしぶしぶ蒼純の前に座った。
座るときは袴に皺がいかないように、
しかし素早く、優雅に、隙を見せぬように座る。
それが小さい頃から家に伝わる作法だった。

それを見た蒼純は、頷いた。







「さすが家。作法は完璧か」
「当たり前だ。何を抜かすか」
「して、霊術院でもその喋り方か?」
「え…?そうだが…」
「そんな喋り方してる奴、おらぬだろう?」
「…まぁ…な…」
「もう少し肩の力を抜け。そして微笑みを浮かべるのだ」
「は?いつもヘラヘラしとけ、と言うのか?」
「そうではない。おぬしは綺麗だ。美鈴様に似て、美しい。
 その美しさを自ら殺してどうする?大貴族たるもの、民衆から慕われる存在にならねばならぬ」
「…」
「ところで、美鈴様はお元気か?」
「母様は…もう起きられぬ。私は早く隊長に似合う力を持たねばならぬのだ…」
…」
「時間がない」









私は出された茶をイッキに飲み干した。
朽木家の茶はいつ飲んでも旨いと思えるものだった。

そして私は立ち上がった。
授業に出る気はなかったが、早く蒼純の前から消えたかった。
彼のいうことは図星だったから、
心を見透かされたようで恥ずかしかった。

自分でも分かっているつもりだった。
こんな堅苦しい話し方では、誰も近寄らない。
こんな無表情では、誰も話かけはしない。
でも母様のような死神にならねばならない。
友人より、力が欲しかった。



が出て行ったあと、蒼純はため息を付いた。








「はぁ。は大丈夫か…?」
「蒼純様、様が今しがた、出て行かれましたが…」
「あぁ。あいつは頭が回る。自分で考えるだろう」
「お話が出来たなら何よりです」
「少し疲れた…横になる」
「はい。お薬をご用意します」








蒼純は薬を飲みながら、を思い出した。
彼女は、彼女の母親であり現・特別隊隊長の美鈴ととても似ていた。
面影・話し方、性格全てがそっくりだった。
それ故、心配していたのだ。
全てを押し殺して生きていくのではないかと。








2012/09/30