私が霊術院に入学して数週間、私は鬼道の練習場にいた。
すでに飛び級で2学年の特進学級と共に学んでいたときだった。









胡蝶の如く  02









様!その調子でございます!!







ちょうど私の蒼火墜が巨大な爆音と共に的の中央に当たったときだった。
鬼道の担当教諭が拍手をしながら私の隣にやってきた。

これくらいの鬼道だったら、詠唱破棄までも習得しているが、
授業の一環のため、詠唱してからの爆撃だ。
威力は最大級。

我ながら良く打てた方だと思った。
でも、顔はムスッとしていたに違いない。
担当教諭の顔がだんだん引きつっていくのが目に見えた。








様…?ど、どうかなさいましたか?」
「…気分が悪いので失礼します」
「は!?ちょ、様!?




「なんだよ、あれ…」
「大貴族だからって何してもいいのかよ」
「ってかあれだけ鬼道打ててオレたちと授業する必要あるか?」








練習場から去る際、そんな話が聞こえてきた。

そのような陰口くらいで気分を害することはなくなった。
それよりも、嫌なことが発覚したのだ。
それが担当教諭の態度である。
私が貴族だからか、一歩下に下がって接してくる。
教諭なら教諭らしく、上からモノを言えばいいものを、と何度も思う。
一度、言ってみたことがある。

「私も他の生徒と同様に扱ってほしい」

と。
まぁ、聞き入れてはもらえなかったが。




それからと言うものの、私は霊術院内で誰とも言葉を交わさなくなった。
自分の課題を終えるとそのまま、次の授業場所に行くようになった。
勿論、他の生徒も私と関わりを持とうとしない。
私は孤立を深めていった。



そんなときだった。
彼と出会ったのは…









「…クールに歩く大貴族様、やな」
「…誰だ?」
「女の子やったらもっと可愛らしぃ話し方できへんの?」
黙れ。誰だ、と聞いているのだ」
「俺は5年の平子真子や。よろしゅう」
「…ふん…」








廊下を曲がった処にいた金髪の青年。
髪は真っ直ぐで癖がない。
私の髪色と対照的な色だった。
漆黒を模したような髪を伸ばした私に対し、太陽を模したような髪をしていた。
平子真子と名乗った男は、廊下を歩き続ける私の背中に話しかけた。









「そんなんで疲れへーん?」
「…」
「笑った方がおもろいでー」
「…」
聞いてる!?
聞こえとるわ、馬鹿者!
「あは!おもろいやん、ちゃん!」
なッ!?
「そんな顔も出来んねんなぁ」









いつの間にか私の前にいた平子真子。
男のくせに華奢な体つきだが、身長は高かった。
私が彼の顔を見るのに結構首を上げなければならなかったからだ。









「ま、仲良ぉしよや」
…ッ!









ぽんぽん、と頭を撫でられ、とっさに一歩身を引いてしまった。









「あら?男慣れしてへんのか?」
う、うるさい!///
「綺麗な顔して初心やなぁ…あ、ちょっと、ちゃん!?
気安く私の名を呼ぶな!!









私は廊下の端まで走ると小さくなった平子の方を向いて叫んだ。








私は貴様が嫌いだ!!










これが、彼との最初の出会いだった。











2012/09/17