今から百十数年前、は中央霊術院に入学した。
その年の首席合格者の一人として…

そして

家次期当主として…








胡蝶の如く  01









特進学級の扉を開けた。
私を見て、恐怖に顔を背ける者、関わりを持ちたくないのか、見て見ぬ振りをする者。

昔からそうだった。
大貴族と誰が関わりを持ちたいだろうか。
同じ貴族ならまだしも、平民や流魂街出身者など、たいていは関わりを持とうとはしない。

友はいなかった。
同時期に生まれた四楓院の夜一という女だけが唯一の話相手だった。
だが、その夜一はこの霊術院には入学しなかったらしい。
私の場合、爺様が決めたこと故、入学しただけだ。
別にこの学院に入りたくて入学したわけではない。



それでも、誰も話し相手がいないのは、つまらないものだった。
帰れば夜一と瞬歩の競い合いや鬼事をすることができるのだが、
一日の大半を過ごす学院で、一言も口を利かないとなると、やはり気が滅入る。









「おい、なんで今年に限って家の当主が入学すんだよ」
「しらねーよ。どーせ一年かそこらで卒業するだろ?ほっとけよ」
「まぁな。それにしても美人だなー」
「やめろよ。お前が釣り合うわけねーだろ」
「手なんか出すかよ。その瞬間、死んじまうって」
「あはは!ちがいねぇ!」










瀞霊廷内で生まれた子供はみんなこんな台詞を吐いていた。
女子は、私と関わりを持たぬよう、私を避けていた。
どうしても私と話さなければならない場合は、敬語を用いた。









「あの、様…この宿題を…」
「ありがとう…別にそんな堅苦しい言葉を使わなくても…」
「い、いいえ!両親に言われておりますので…し、失礼します!」








阿呆か、と言いそうになった。
誰もが親の言いなりか、そう思った。

流魂街出身者もそんな話を耳にしたのか、誰も寄り付かなかった。









「はぁ〜」
「どうした、
「どうしたもこうしたもあるか、夜一」
「何じゃ?天下のも霊術院では友一人作れぬか!
「ほざけ。皆が私に寄り付かぬのだ!知るか」
「…何かやらかしたか?」
何もしておらぬわ!








面白そうに私の顔を覗く夜一が気に入らなくて、私は湯呑のお茶を一気に啜った。
それが予想以上に熱くて、ケホケホと咳をしていると、私たちのいる部屋の襖に誰かの影が現れた。








!夜一!入るぞー!!」
「「その声は…」」
「おーっす!久しぶりだなぁ!」
「「空鶴!!」」
「いやいや。そこ、ハモらんでもいいだろ。ちょっくら暇でな、遊びに来てやったぜ」
「何か面白い事でも思いついたか?」








私はそのままゴロンと畳に寝そべると、茶菓子の袋を開けた。
志波空鶴は私たちより少し先に生まれた。
といっても、この尸魂界では年など関係ないから、私たち3人は上下関係もなく、何かしら絡んでいた。

空鶴は私たちの前にドカッと胡坐をかくと、そのまま私が開けたばかりの茶菓子を引っ手繰った。








あー!私のだぞ!」
「まぁまぁ。また持ってこさせればいいじゃねーか」
ここは私の屋敷だぞ!?
「知ってる知ってる。そこらじゅうにの家紋が付いてるからな。」
「むっ…」
「ところで、。その袴を着てるということは霊術院に入学したか!!」
「あぁ。つまらんところだ。さっさと卒業してやる」
「さっきからこの調子じゃよ。霊術院はにとっては狭苦しいらしいのぉ」
「何を言うか、夜一!私は今年の首席だぞ?舐めるなよ」








さっきからこの調子だ、というような目で夜一は私を見てから、空鶴を見た。
空鶴は茶菓子をぼりぼり食べながら、湯呑のお茶を啜った。

すると空鶴は思い出したように口を開いた。









「そういえば…今年は朽木家の時期当主が六番隊副隊長に着いたんじゃなかったか?」
「あぁ。蒼純か?」
「呼び捨てとはいい度胸じゃのぉ?
「あんな奴、私の口ほどにもない。臆病虫め」
「臆病?朽木家の坊ちゃんがか?」
「あやつめ、女子の前はおろか、男の前でもシャキッとせん故、嫌いだ!」
「「あっはっはっはっはっ!!」」
な、何故笑う!?









私の言葉を聞いた夜一と空鶴は二人して大声で笑い始めた。
何がそんなにおもしろかったのか分からない私は、二人に向かって大声で怒鳴った。
それでも二人は笑うことを止めることができずに、ひとしきり笑った後、私を見た。









「朽木家次期当主を罵倒するとは、さすが家次期当主!
「黙れ、空鶴」
「まぁまぁ。また大貴族同士の茶会のときにでも会うじゃろ?」
「まぁな。私は奴とは口を利かんと決めておる。臆病虫が移る」
「いやー!の度胸には毎回驚かされるぜ」
「うるさいぞ、空鶴!ところで、夕飯は食べて行くか?」
「いーや!今日は帰るよ。ありがとな」
「そうか?」
「あぁ!今日は兄貴にちょっと用があってな。ついでにお前らの顔を見に来たってわけだ」








そういえば、志波家の長男が護廷隊に入隊したという噂を耳にしていた。
元大貴族の志波家が没落してから初めての入隊者だ。

すると、空鶴は湯呑に残ったお茶を飲み干すと立ち上がった。
帰るという意味だろう。








「…たしか…十三番隊か?」
「あぁ。浮竹隊長の隊だ」
「ふーん。ま、私たちには縁がないな」
「はっはっはっ!は特隊、夜一は隠密機動だもんな」
「まぁな。じゃあ、気を付けて帰れよ」
「また、お前の霊術院話、聞きに来てやるよ」
「余計なお世話だ!」
「じゃあな」








嵐のように来た空鶴は、はやり嵐のように帰って行った。

また明日、霊術院に行かなければならないと思うと、気が重い。









「あー!やっぱり、おぬしたちと話しているときが一番落ち着くのぉ!」
「そんなこと言ってると、護廷隊に入ってからもハブられるぞ!」
はぶっ!?なんじゃと!?
あはは!ま、その性格じゃと心配ないがの。それより、メシはまだか?メシは
「おぬし、食べて帰るつもりだったのか?」
「当たり前じゃろ?もうメシの時間じゃ」








そういって夜一は時計を指差した。
すると夕方6時を少し回ったくらいだった。
私はため息をついて、少し微笑んだ。







「ふふふ…おぬしが食べて帰るとなると、食料庫が危ういな」
「知るか。の食料庫はすぐに空になるほど小さいのか?」
んなわけあるか!








そういって私たちはじゃれながら、夕食を取りに行った。








2012/09/14