ふわっと香る甘く切ないムスクの香り。
私がそれが大好きだった。
Musk
「ねぇ、ダリューン?」
「…なんだ?」
「その香り、どこで買ってるの?」
「…どうした、急に…」
「私、ダリューンのそれ、大好きなの」
「それ…とは?」
「匂い!」
そういって彼の胸に飛び込む。
いつも鍛えているせいか、分厚い胸板でも私を優しく抱き留めてくれる。
「私もそれ、付けたいなぁ」
「俺はお前の匂いが好きだがな」
「一回だけ、ね?」
「まぁ、使うのは別に構わないが…」
その夜、私は風呂のあと、ダリューンの使う香油を少し身体に付けてみた。
「…どうした、…そんな顔して」
「うーん…」
「俺の香油、使ったんだろう?」
「うん」
「気に入らなかったか?」
「違うの…」
私はそっと、ベッドの上で本を読むダリューンの隣に座った。
私が動くとその空気に乗ってムスクの甘い香りが鼻をつく。
その香りが良かったのか、ダリューンは読みかけの本をサイドテーブルに置くと、そのまま私の胸の顔を埋めた。
「ダリューン…?」
「お前が付けると…また違うな…」
「でしょ?」
「?」
「やっぱりこの香りは、ダリューンが付けるからいい香りなのね」
次は私が彼の首筋に顔を向けた。
彼からは私の大好きなムスクの香りがする。
私が大好きなのはこの香りで。
これからもずっとこのムスクに包まれていたいと思える。
すると、太ももをスルスルと撫でる感触が背筋から這い上がってきた。
「ひゃあ!?ちょ、ダリューン!?」
「いつもと違う香りが、またそそると言っただろう?」
「や、そこまで…言ってない…!」
甘く切ないムスクの香りで、私たちの関係もより甘いものになったのでした。
2016/12/20
「やっぱり私はこのイランイランの香りが好き」
「には花が似合う」
「次はダリューンがこれ、付けてみる?」
「…遠慮する」