私はギーヴに声をかけた。
アラベスク-12-
「ギーヴ殿は…」
「ん?」
「ギーヴ殿は何故旅をしているのですか?」
「んー、それは難しい質問ですな」
「え?」
「何故なら自分でも分からないからです。ただ、一点に留まることを窮屈と思う性格でしてな」
「…そう」
「気付けば旅をしておりました。琵琶も歌も舞も、道中で身に付けたものです。
ま、嬢とは真逆の人生ですな!」
はっはっはっ!と笑うキーヴに私は呟いた。
「…同じですよ」
「へ?」
「寧ろ私のほうが自分が何者なのか、未だに分かっていないのですから…」
「…」
「あら、あれはなんでしょう?」
が指さす先にルシタニアの兵の姿があった。
高笑いしながら、近くの村から奪い取ったであろう、羊や食料などを運んでいる。
「ルシタニア兵か…余計な争いはしないほうがいい」
「…」
「嬢、彼らを殺してもお父上の復讐にはなりませんよ」
その言葉に、私は矢を取ろうとする手を止めた。
この男は、本当によく見ている…
すると、前から美女が一人、馬に乗ってやってきた。
「あれは…」
「あれはなんと美しい女性!!」
「は?」
「この先には先ほどののルシタニア兵が!あのご婦人が襲われてしまう!」
「あ、あのギーヴ殿?」
「そこを俺が助ける。当然ながら俺に感謝と敬愛の念を抱く。
そして何かお礼をしなくてはと考えるだろう!」
「ちょっと、ギーヴ殿!?」
「嬢はそこでお待ちを!すぐに戻ります故!!」
「ちょっとー!!」
はぁ〜とため息をついて、私はギーヴの制止を聞かず走り出した。
私の眼が正しければ…
ギーヴが助ける隙もなく、美女はルシタニア兵を射殺していく。
そんな彼女を見て、恩を着せるために近くのルシタニア兵を斬っていくギーヴ。
最後の一人を、私は後方から仕留めた。
美人はそのまま歩いていく。
ギーヴと言えば、彼女を止めようと必死に叫んでいた。
「お待ちあれそこのご婦人!!」
「…」
「そこの美女!!」
「…」
「そこの絶世の美女」
「私を呼んだか?」
「(やっぱり…)」
ガクッと肩を落としてキーヴの隣に馬を寄せた。
ギーヴは彼女に何かと話をつけようと必死だった。
「いや、貴女の美しさに加え武芸の冴え!まことに感服いたしました!
我が名はギーヴ
住む家もなき…」
「やはり、ファランギース殿でしたか!」
「へ?」
「おぬし…もしやか?」
「お久しゅうございます。お変わりありませんか?」
「まぁな…おぬしもその様子では、変わらぬようだな」
「ふふふ」
「え?え?お二人、お知り合いか?」
「私の名はファランギース。
フゼスターン地方の『ミスラ神殿』に仕える者じゃ。
女神官長より使者としてエクバターナに遣わされてな」
ファランギースの説明に加えるように私も口を開いた。
「私が7つの時、修行としてミスラ神殿に預けられまして…
そこで私の指導というか世話というか、何かとお世話してもらったのです」
「あの10年間は、まぁ色々あった。これほどまでに悪い少女がいるものか、とな」
「B>あははー」
「嬢が悪い…少女…!?」
「今より少し、お転婆だったとでもいいましょうか」
「お転婆どころでは…まぁ、良い。
ところで、道中、王都は既に陥ちたと聞いたが…ヴァフリーズ卿は無事か?」
私はその言葉に答えずただ、俯いた。
それだけで答えが分かったのだろう、ファランギースも何も言わず、言葉をつづけた。
「道々見てきたがルシタニアの蛮行はまことむごいものであった」
「おぉ、それは俺たちも見てきたところだ!
奴ら神に仕えると言いながら慈悲慈愛の心を全く持ち合わせておらん!
…してファランギース殿、どのようなご用が王都におありだったのかな?」
「王太子アルスラーン殿下の元へ参ろうとしておったのじゃ」
「ファランギース殿も?」
「なんと、おぬしらもか。」
「はい…私は父と生前、アルスラーン殿下に忠誠を誓うとお約束しました」
「その約束を果たしに、か」
「はい…」
力なく答えるにファランギースは言った。
「では、ともにアルスラーン殿下の元に参ろうではないか、」
「はい!」
「おーい、俺は?」
「おぬしも来るのか?」
「無論!我が任務は嬢を無事、殿下の元へ連れ参ること!」
「まぁ、良いが…して、おぬしら、王太子殿下のご所存を知っておるのか?」
「いや、存じ上げぬ」
ケロッとして言うキーヴに、ファランギースはため息を吐いた。
「おぬしら、それでよくここまで来れたものじゃ」
「でもギーヴ殿のお話は面白いですよ」
「全く、も少しは疑う、ということを覚えねばならんな」
2017/03/05