アラベスク-11-
がギーヴと旅を初めて数日後、エラムはエクバターナを訪れていた。
正体を隠すためか、女装をして。
街ではアルスラーン当別のため、カーラーン隊が隊列を成して闊歩していた。
エラムは隣にいたパルス人に様子を聞いた。
「あの、あれは…?」
「あぁ、あれは裏切り者のカーラーン隊だ。アルスラーン殿下の首を取りに行くってよ」
「…王子を?行方不明と聞いていますが、どこにいるかわかったのですか?」
「さぁ?でもあぶりだすなぞ簡単だと、さっきルシタニア兵が言ってたなぁ…」
「どういう…」
「近くの町を襲って焼くのさ。王子が出頭しない限り、焼き続ける。」
「…ひどい」
「もっとひどいことも言ってたぞ。」
「どういう…」
「王子お付きの万騎長ダリューン様を脅すのさ」
「…まぁ!でも、ダリューン様を脅す方法なんて…あの方は獅子をも倒すお方でしょう?」
「ダリューン様の弱点を突くのさ」
「弱点?」
「死んだ大将軍ヴァフリーズの娘嬢だ。彼女が消えたそうだ」
「!?」
「あれだけの美貌だ。殺されてはないだろうが…」
「…」
「ダリューン様との結婚も決まってたのに、可愛そうなこった」
エラムはその場からスッと姿を消した。
様が消えた…
今のダリューン様に伝えるには中々…
そう考えていると、ふとエラムの肩をルシタニア兵が掴んだ。
※ ※ ※
「エラム、ご苦労であった」
エラムがアルスラーンの元へ帰ったのち、エクバターナでの情報を伝えた。
ほぼ伝えたのち、エラムが俯き、口を閉ざした。
その様子を見て、ダリューンが口を開いた。
「…ん?どうした、エラム」
「もう一つ、情報があるのですが…」
「なんだ、全て伝えろ」
「…あの、私の口からはとても…」
「どういうことだ、エラム?」
「まずナルサス様に…」
「なんだ、エラム。俺や殿下には直接言えぬことか」
エラムは深呼吸をして、ダリューンを見つめた。
「ダリューン様…これは私の聞いた話でしかありませんので」
「…あぁ…心して聞こう…」
「…嬢の姿が見当たらないそうです」
「!?」
「…なに、嬢が…」
ダリューンの様子を見たアルスラーンが心配そうに彼を見る。
だが、いつもはアルスラーンの眼差しに微笑み、「大丈夫です」と言うダリューンも
今回ばかりは、無言を貫いていた。
そんなダリューンを見て、ナルサスが彼に言う。
「…嬢は美貌の持ち主だ。殺されてはいないだろうが…」
その言葉を聞いて、ダリューンはナルサスの胸倉を掴んだ。
「お前…!!言っている意味が分かっているのか!?」
「勿論だ。嬢は死んでいない、ということは断言できる。
どれだけ深い傷を負っていようと生きていれば、また会える。
彼女をその傷から救えるのはお前だけだ、ダリューン」
「っ…! 少し、頭を冷やしてくる」
「そうしろ。」
小屋から外に出るダリューン。
そんな彼の姿を見て、アルスラーンがナルサスに聞いた。
「は…無事だろうか…」
「先ほども申し上げた通り、命は無事でしょう。しかし…」
「…どうした?」
「嬢はまだ婚礼の儀をしておりません。
伴侶のいない嬢を娶(めと)ることは容易い。」
「っ…!」
「とすると…まずいな」
「?」
「カーラーンはおそらく嬢のことでダリューンを揺さぶってくるでしょう。
心理作戦です。かの『戦士の中の戦士』ダリューンでも嬢のことになると、ああなる。
我々の一番の弱点だ」
ダリューンは外で夕日を見つめていた。
そのときの彼の顔は誰も見ていない。
2017/03/05