出陣前日、私はダリューンと叔父ヴァフリーズの出陣に必要なものの準備を居間でしていた。
アラベスク-7-
「今、良いか?」
「あ、おじさま!もうご準備はお済になって?」
「あぁ…少しと話したくてな」
「あはは!なんですか、急に。夕食のときもお話したではありませんか」
「…ダリューンとようやく一緒になるのだな」
「!…はい」
「わしもようやく孫の顔が見れるというものだ」
「おじさま…」
私は歳も考えず、叔父ヴァフリーズに抱き着いた。
叔父もそっと私を抱きしめてくれた。
「必ず…無事に帰って来てください」
「勿論じゃとも。私の可愛い娘の子を見るまで死ねぬわ」
「はい…!」
「さぁ、そろそろダリューンの元に行ってやりなさい。
あやつは戦前は気を張りすぎるところがある。戦前こそ、力を抜かねばな」
「はい!」
「…して、」
「なんです?」
「アルスラーン殿下はどうじゃ?」
「へ?殿下ですか?
初陣が決まってからはずっと緊張しているみたいですけど…」
「そうか…よ。
アルスラーン殿下に忠誠を誓ってはくれぬか?」
「へ?私は…私を生かしてくれたパルス王国に忠誠を尽くすつもりですよ」
「殿下個人に、じゃよ。…」
「?…はい、おじさまのお望みとあれば、私の命は殿下にお捧します」
「そうか…すまぬな…もう行きなさい」
私は最後に叔父がどのような顔をしていたのか見ることはなかった。
ただ、変わったお願いをするものだなと単に思ってただけであった。
ダリューンとの部屋に戻ると、彼は一人、明日の出陣時に使う剣を磨いていた。
「…戻ったか」
「うん…もうそろそろ寝たほうが…」
「これだけ磨いたらな」
「…ねぇ」
「なんだ?」
「さっきおじさまがね…」
先ほどの話をダリューンに話した。
話し終わる頃にはダリューンは剣を磨き終わり、二人で床に就いていた。
「叔父上が…そんなことを…」
「うん、変でしょう?殿下に忠誠だなんて…私は元々殿下にしかお仕えする気はないのに」
「…」
「あ!」
「ん?」
「おじさまに言ったの?一緒になること…」
「それはもちろん…叔父上には一番に言うものだろう」
「もう孫の話をされたわ」
「ははっ!叔父上も気が早い」
私はダリューンに抱きつき、ギュッと彼の服を掴んだ。
「どうかご無事で…帰ってきてください」
「あぁ…勿論だとも」
その日、彼は私が眠りにつくまでずっと、頭を撫でていてくれた。
※ ※ ※
ダリューンと叔父ヴァフリーズを戦へと送り出して2日後、私は悲報を聞くこととなった。
夜も満足に寝ることもできず、王宮にて進みもしない書類に目をやっていると、
侍女の一人でドアを勢いよく開けた。
「様…!!」
「!」
「パルス軍が…パルス軍が…!!」
「どうしたの!?」
「負けた…と…!」
「…ぇ…」
私は持っていたペンを床に落とし、その場から動くことができなかった。
「アンドラゴラス陛下は行方不明…ついでアルスラーン殿下の安否も確認できないとのことで…」
「ダリューン…万騎長様たちは…!?」
「万騎長ダリューン様の安否も…確認できておりません…」
「様っ!?」
私は目眩を起こし、その場に倒れ込んだ。
後ろに仕えていた侍女が支えてくれたが、立つことができなかった。
「ダリューン…!!」
2016/11/04