パルス歴317年。
    噴水の脇で、カンカンと剣の交える音が木霊していた。






    アラベスク-2-




    「はい上 はい中 はいはい 下」
    「わっ」
    「中」
    「わっ…待っ…」








    カンっと剣が飛び、ドサッと少年が尻餅を付いた。









    「ひどいな ヴァフリーズ
     そんな技を使うなんて…」
    「はっはっはっ!この程度のものは技とは申しませぬ! 
     ただの剣の基本動作です。ただし、その基本を鍛えなければ技も威力も失います。
     基本をお磨きなさいませ、 アルスラーン殿下
    「つまらない…」









    侍女がアルスラーンの服を召し換えているとき、パタパタと小さな足音が聞こえてきた。









    殿下〜!!
    「ん?」
    「こら、!王宮は走るなとあれだけ…」
    「あ、おじさまもいらしたんですか!
     それより殿下、そろそろお勉強のお時間ですよ」
    「えぇ〜…ちょっとは休ませてくれ、








    は栗色の長い髪を片方にまとめて結い上げていた。
    灰色の大きな瞳は曇りもなく、透き通るような白い肌はパルスの太陽に輝いていた。
    のその美しさは王妃タハミーネと互角とまで言われ、それは隣国にも噂は広まっていた。









    「なりませぬ!私は殿下の教育係として立派な王太子に…」









    長々との説教じみた話が始まろうとしていたとき、
    大きな2羽の鷹が影をなして舞い降りてきた。








    スルーシ!アズライール!!
    「ほぉ!こやつらが帰って来たということは……」
    「殿下!ヴァフリーズ殿もお変わりありませんか!」
    「キシュワード!」
    「スルーシ!アズライール!飼い主より先に殿下に帰還の挨拶とは生意気な奴らめ!」
    ふふ!舐められているのですよ、キシュワード様」
    もおったのか」
    「はい!」

    「ご苦労であった。皆、無事か?」
    「はっ!当方の損害は軽微にて!
     友邦マルヤムに侵入したルシタニア軍を我がパルス軍が撃退いたしました。
     アンドラゴラス陛下のご帰還です!







    殿下とヴァフリーズは陛下のお迎えへと向かった。

    帰還と聞いて、はふと城下を見た。
    門から軍が入ってくるのが見えた。
    あの中に…








    「ダリューンは一足先に帰っているはずだ」
    …な!?///
    「シャブラングが早く帰りたがったそうだ、珍しい…」
    「あ、あの…何が…」
    「良き馬は主人の心を汲み取るというからな」
    「キ、キシュワード様!!」









    は真っ赤な顔でキシュワードを睨んだ。
    ダリューンととは所謂恋仲であり、それは万騎長はもちろん城内では有名であった。
    しかし、はそこから動こうとはしなかった。








    「ん?行かぬのか?」
    行きませぬ!!
    「何故だ?」
    「何故って…」
    喧嘩か?
    「な!そんな幼稚な…!!
    「歳はいくつになった?」
    「19…です」
    「はっはっはっ!まぁ、大人になることだ、









    2羽の鷹を連れて中へと入るキシュワードの背中をは赤い顔をして見ていた。









    「私だって…」








    城下は勝利の歓声に包まれていた。








    2016/09/24