パルス歴303年、春。
王都エクバターナの町を元気に駆け回る子供が3人。
うち一人は栗色の髪をした少女だった。
アラベスク-1-
「わーい!領主ナルサス卿を打ち取ったなりー!!」
「は何でそんなに走るのが早いんだ?」
「ナルサス、こいつは…」
「あ、ダリューン、それ以上言っちゃダメー!!」
頬を膨らませて怒るのはと呼ばれた少女。
齢はまだ5つ。
それでも5つ上のダリューンやナルサスと対等に話せるほど口が達者だった。
「私はすごいのです!」
「「はぁ??」」
「だから今日のおやつはおじさまのおうちに行くのです!」
「おじさまってまさか…」
「ピンポーン!ヴァフリーズおじさま!」
「ちょ、!!怒られるのはオレだぞ!?」
「ダイジョブ!抜け道知ってるから」
小さな少女は栗色のきれいな髪をなびかせて先頭を走った。
ため息を吐きながらそのあとを付いていく少年2人。
この日、少女の運命は大きく変わることとなった。
※ ※ ※
秘密の通路、それはだけがそう呼んでる道であり、
ただ単なる王宮へと続く歩行路。
それをづかづかと歩いていくの度胸にダリューン少年とナルサス少年は
恐れ多くもため息が止まらなかった。
「後で叔父上の怒られるのはオレだぜ?」
「お前も大変だな」
「何でオレがの面倒見てるのか…」
は所謂、孤児だった。
当時、まだ万騎長であったヴァフリーズ邸の前に生まれて数か月であろうが置き去りにされていたらしい。
栗色の髪に灰色の瞳は当時のエクバターナでは、それはそれは珍しい組み合わせだったので、すぐに赤子を捨て置いた
親が見つかると思っていたが、それから早5年。
の親は到底現れず、ヴァフリーズ夫妻が愛情を持って育てていた。
こうしては無邪気でいらずら好きな少女へと育っていた。
「あ、がいない…」
「は?ナルサス、冗談は…」
「本当だ。ほら、前…」
「…え…」
少女の後を付いてきていたはずだったので、目の前に栗色が髪が見えないことに大層驚いた二人。
「「やばい…」」と二人で声を揃えたあと、王宮の中を駆け回る羽目になったことに少し泣きそうになっていた。
そんな年上の兄たちの心配も知らず、はニコニコ顔で王宮の中庭に咲いた色とりどりの花に惹かれていた。
花はエクバターナ中に咲いているが、これほど種類の多い庭はここにしかない。
鼻をくすぐるようないい香りに、は心を躍らせていた。
「お花いっぱいー!」
「…花が、好きなのか?」
「うん!…ん?だれ?」
「…お前こそ誰だ?」
「私、!」
「オレは…ヒルメス…」
「ヒルメス?」
「オレは王子だ!!」
「王子…?じゃあー…ヒルメス様だ!」
ニコニコして言うに、ヒルメスはため息を吐いた。
そして、咲いていた花を一輪、に差し出した。
「ほら…」
「くれるの?」
「ずっと見てただろう?」
「うん!ありがとう!!」
「!!」
「ヒルメス様!!」
中庭の奥からヴァフリーズ、そしてヒルメスお付きの侍女が走ってやってきた。
「!殿下に何を…!」
「何もしてないよー!お花もらった!」
「はぁ?…申し訳ありません、殿下。私の娘がご無礼を…」
「いや、別に…」
「さようなら、ヒルメス様!」
ヒルメスは、ヴァフリーズに手を握られ、去っていく少女を見つめていた。
・ダリューン・ナスサスの3人はそのあとヴァフリーズにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
2016/09/24